「自分が死んだ後、財産はどこに行くのだろう——」
そんなことを、ふと考えたことはないでしょうか。子どもも親も兄弟姉妹も身近にいない場合、「相続人がいない」状態になることがあります。そのまま何も準備しなければ、財産は最終的に国庫に帰属します(民法第959条)。
「国に取られてしまう」のは、多くの方が避けたいと感じることです。
でも、安心してください。遺言書を一通書いておくだけで、財産の行き先を自分で決めることができます。
親しい友人、姪や甥、長年お世話になったNPO、好きな動物愛護団体——法定相続人でなくても、遺言書があれば自分の望む人・団体に財産を渡せます。これを「遺贈(いぞう)」といいます。
この記事では、おひとりさまが遺言書を書くべき理由・誰に何を残せるか・費用感・公正証書遺言の作り方を解説します。「難しい」という先入観がある方も、ぜひ最後まで読んでみてください。専門家と一緒に進めれば、意外とシンプルに作れます。
なぜおひとりさまに遺言書が必要なのか
相続人がいない場合、財産はどこに行くのか
民法では、相続の順位が以下のように定められています。
| 順位 | 相続人 |
|---|---|
| 第一順位 | 子ども(代襲相続:孫) |
| 第二順位 | 父母・祖父母(直系尊属) |
| 第三順位 | 兄弟姉妹(代襲相続:甥・姪) |
これらがすべて存在しない・すでに他界しているという状況が、おひとりさまには珍しくありません。
この場合、「相続人不存在」となり、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任します。清算人が債権者への弁済・特別縁故者への財産分与の手続きを経た後、残った財産は国庫に帰属します(民法第959条)。
遺言書があれば、このプロセスを経ずに、本人の意思通りに財産の行き先を決められます。
遺言書で「誰に」財産を残せるか——遺贈という選択
「遺贈」とは、遺言書によって法定相続人以外の人・団体に財産を渡すことです(民法第964条)。
遺贈できる相手(例)
- 親しい友人・知人
- 姪・甥(三親等の親族として法定相続人にもなりうる)
- 内縁の相手・長年のパートナー
- NPO法人・社会福祉法人・公益財団法人
- 大学・研究機関(奨学金や研究費としての寄付)
- 動物愛護団体・環境保護団体
「特定遺贈」は特定の財産を指定して渡すもの(例:「○○銀行の預金全額を友人の田中太郎に遺贈する」)、「包括遺贈」は財産全体の割合を指定するもの(例:「財産の3分の1を○○NPOに遺贈する」)です。
おひとりさまが選ぶべき遺言書の種類
自筆証書遺言——費用ゼロだが注意点も多い
自筆証書遺言は、遺言書のすべての内容を自筆で書き、日付と氏名を記載し、押印して作成します(民法第968条)。2019年の法改正により、財産目録はパソコンで作成することも可能になりました。
メリット
- 費用がかからない
- いつでも、一人で作れる
- 内容を秘密にできる
デメリット・注意点
- 形式の不備(日付の記載漏れ・財産の特定不足など)で無効になるリスクがある
- 紛失・偽造のリスクがある
- 家庭裁判所の検認手続きが必要(法務局に保管した場合は不要)
- 発見されないリスクがある
法務局の自筆証書遺言書保管制度(2020年開始)を利用すれば、法務局が遺言書を保管し、紛失・偽造を防ぐことができます。検認手続きも不要になります(手数料3,900円)。費用を抑えたいがセキュリティも確保したいという方には有効な選択肢です。ただし、内容の法的チェックは行われないため、形式不備のリスクは残ります。
公正証書遺言——おひとりさまに最もおすすめの方法
公正証書遺言は、公証人(法務大臣から任命された法律の専門家)が関与して作成する遺言書です(民法第969条)。
作成プロセス
- 弁護士・司法書士に相談し、内容(誰に何を残すか・遺言執行者の指定など)を設計する
- 公証役場に予約を取り、公証人に草案を確認してもらう
- 公証役場で証人2名の立会いのもと、遺言書が公正証書として作成される
- 原本は公証役場で保管される(紛失リスクなし)
メリット
- 形式不備による無効のリスクがほぼない
- 原本が公証役場に保管されるため、紛失・偽造の心配なし
- 家庭裁判所の検認手続き不要(相続手続きがスムーズ)
- 金融機関・法務局・各行政窓口での信頼性が高い
- 証人が立会うため、後から「遺言者に判断能力がなかった」と主張されにくい
費用の目安
| 費用の種類 | 目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 弁護士・司法書士への相談・作成サポート | 5〜15万円 | 内容の複雑さによる |
| 公証人手数料 | 1.1万〜5万円程度 | 財産総額によって計算 |
| 証人2名の費用(専門家に依頼の場合) | 1〜2万円程度 | 知人に依頼すれば不要 |
総額の目安: シンプルな内容なら10〜20万円程度、複雑な財産状況・弁護士依頼なら30〜50万円程度
おひとりさまには、確実性の高い公正証書遺言を強くおすすめします。
遺言書に書くべき内容——おひとりさまのケース
基本的に書くこと
① 財産目録
- 預金口座(銀行名・支店名・口座番号・種別・残高概算)
- 不動産(所在地・地番・家屋番号・種類)
- 有価証券(証券会社名・銘柄)
- その他の財産(生命保険・自動車・貴金属など)
② 財産を誰に渡すか
- 受遺者の氏名・生年月日・住所・本人との関係を記載
- 特定の財産を指定して渡す場合は「○○銀行××支店の普通預金口座(口座番号:)を、△△△△(生年月日:)に遺贈する」という形式で明記
③ 遺言執行者の指定
- 遺言書の内容を実際に実行する人物を指定する(民法第1006条)
- おひとりさまには、専門家(弁護士・司法書士)を遺言執行者に指定することをおすすめ
- 遺言執行者がいると、金融機関の口座解約・不動産の名義変更などの手続きがスムーズに進む
④ 付言事項(任意)
- 法的効力はないが、「財産をこのように使ってほしい」という希望や、受遺者への感謝の言葉を記載できる
- 受遺者にとって故人の気持ちが伝わる大切なメッセージになる
おひとりさまならではのポイント
予備的遺言を記載しておく
「受遺者が自分より先に亡くなった場合」に備え、「その場合は○○に遺贈する」という予備的な記載を入れておくことが重要です。予備的遺言がなければ、受遺者が先に亡くなった場合の財産の行き先が不明確になります。
団体への遺贈は正確な法人情報を記載
NPOや団体に遺贈する場合は、「法人名(正式名称)・法人の種類(特定非営利活動法人など)・法人の所在地」を正確に記載します。また、相手方が遺贈を受け入れる(受諾する)かどうかを生前に確認しておくことを強くおすすめします。団体によっては最低金額の条件を設けている場合もあります。
遺言執行者は必ず指定する
おひとりさまの場合、遺言書があっても「実行してくれる人」が自動的には現れません。遺言執行者を指定しておくことで、金融機関・法務局への手続きをスムーズに進められます。
遺言書と死後事務委任——両方揃えて初めて完全になる
遺言書だけでは足りない理由
遺言書は「財産を誰に渡すか」を決めるものです。しかし、以下の事務は遺言書・遺言執行者の役割外です。
- 死亡届の提出・火葬許可証の取得
- 賃貸住宅の解約・退去・遺品整理
- 携帯・サブスクリプション・光熱費の解約
- 葬儀・納骨の手配
これらを担う人を決めておくのが「死後事務委任契約」です。
| 書類・契約 | 目的 | 担う事務 |
|---|---|---|
| 遺言書 | 財産の行き先を決める | 相続・遺贈に関する事務 |
| 死後事務委任契約 | 死後の手続きを委ねる | 各種解約・葬儀・遺品整理等 |
この2つをセットで整えることが、おひとりさまの「死後の安心パッケージ」です。
同じ専門家(弁護士・司法書士)に遺言書と死後事務委任をまとめて依頼すると、費用を抑えられる場合があります。詳細は 死後事務委任契約——おひとりさまの「死後の手続き」を託す方法 をご覧ください。
遺言書の内容や費用について、専門家に無料で相談できます。「書いておこうかな」と思った今が、始め時です。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 遺言書がなければ、本当に財産はすべて国に行くのですか?
A. 法定相続人が誰もいない場合は、最終的に国庫に帰属します(民法第959条)。ただし「特別縁故者」として認められる関係者(生前に生計を同じくしていた人など)が家庭裁判所に申立てることで財産分与を受けられる可能性もあります。しかし、申立てを誰かがしてくれる保証はありません。遺言書を書いておくことで、確実に自分の意思を実現できます。
Q2. 友人への遺贈は可能ですか?贈与税がかかりますか?
A. 友人への遺贈は可能です(民法第964条)。税金については、法定相続人以外への遺贈は「相続税」の課税対象になります(法定相続人以外は相続税額が2割加算)。ただし相続税には基礎控除(3,000万円+法定相続人数×600万円)があるため、財産額によっては課税されない場合もあります。詳細は税理士への確認をおすすめします。「贈与税」ではなく「相続税」の対象です(遺贈と生前贈与は税の扱いが異なります)。
Q3. 一度作った遺言書は変更できますか?
A. できます。遺言書はいつでも全部または一部を撤回・変更できます(民法第1022条)。新しく作成した遺言書が古い遺言書に優先します。財産状況や人間関係が変わった場合は、定期的(5年ごとなど)に見直すことをおすすめします。公正証書遺言も、同様の手続きで新しい遺言書を作成することで変更が可能です。
Q4. NPOや寄付先の団体に遺贈する場合の注意点はありますか?
A. 遺贈先の団体が存在していること・法人格を持っていることを確認してください。また、相手方が遺贈を受け取るかどうかを生前に確認しておくことが重要です。団体によっては一定金額以上でないと受け入れない場合もあります。団体側と生前に合意書を交わしておくとより確実です。
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本記事の情報は2026年3月時点のものです。民法その他の関係法令は改正される場合があります。遺言書の作成・遺贈に関するご相談は専門家(司法書士・弁護士・税理士)に必ずご確認ください。