もし今夜、救急で運ばれたら——緊急連絡先の欄に、誰の名前を書きますか?
この問いを突き付けられたとき、「書ける人が思い当たらない」という方がいます。配偶者も子どもも親もいない。友人には重い負担をかけたくない。でも入院になったら、何か問題が起きるのではないか——。
安心してください。この問いへの答えを、今のうちに準備しておくことができます。
「身元引受人がいなければ入院できない」わけではありません。厚生労働省の方針でも、身元保証人がいないことだけを理由に入院を拒否することは適切でないとされています。そして、民間の身元保証サービスや専門家に依頼することで、「保証人問題」を解決できる手段が整っています。
この記事では、入院・介護施設入所時の身元引受人問題の現実と、4つの具体的な対処法を解説します。「ひとりでも、入院・施設入所の備えができる」——その安心感を持って読み終えてもらえることを目指しています。
病院が「身元引受人」を求める理由と現在の状況
身元引受人とは何か——病院が求める理由
入院手続きの書類に記載する「身元引受人」「身元保証人」には、複数の役割が含まれています。
役割①:入院費の連帯保証 入院費の支払い保証人として、本人が支払えない場合の連帯責任を負います。
役割②:緊急時の連絡先 病状の急変・手術の際に、病院から最初に連絡が入る窓口です。
役割③:退院時の引受 治療が終わり退院する際に、患者を引き取る役割を担います。
役割④:意識がない場合の判断窓口 患者本人が意思表示できなくなった場合に、医療方針について相談できる「事実上の判断窓口」として病院が相談する相手になります(法的な医療同意権は本人のみですが、現場では家族や身元引受人への確認が行われることが多い)。
これだけの役割を担える人が、おひとりさまには自動的には存在しません。だからこそ、意図的に設計しておく必要があります。
厚生労働省の方針——「身元保証なしでも入院を断ってはいけない」
2018年、厚生労働省は「身元保証人等がいないことのみを理由として入院を拒否することは適切ではない」という通知を各医療機関に出しました。
また2023年には「医療機関が行う身元保証等の確認業務に関する指針」を公表し、身元保証人がいない患者への対応策の整備を各医療機関に求めています。
法律上、「身元引受人がいなければ入院できない」規定は存在しません。
しかし、この方針の周知がまだ十分に浸透していない医療機関があるのも現実です。「身元保証なしでは対応が難しい」と言われた場合でも、諦めずに対応を求めることが重要です。
実際の現場——「まだ追いついていない」施設も
厚労省の通知は医療機関を主な対象としていますが、介護施設(老人ホーム・特別養護老人ホームなど)には直接的な拘束力が及ばない部分もあります。
介護施設の多くは独自の判断で保証人を求めており、「身元保証人なしでは入所受け入れが難しい」という施設が多数存在します。このため、現実的な対策として身元保証サービスを事前に契約しておくことが最も確実な方法です。
身元引受人がいない場合の4つの対処法
対処法① 民間の身元保証サービスを契約する
最も現実的で即効的な方法です。
民間の身元保証サービスは、入院時・施設入所時の「保証人代行」「緊急連絡先の代行」「退院時の引受」「死後事務」などをパッケージで提供します。多くの病院・介護施設が受け入れており、おひとりさまの身元引受人問題を根本から解決できます。
費用の目安:初期費用(預託金)50〜100万円+月額管理費1〜3万円程度
選ぶ際のポイントは 身元保証サービスの選び方と費用相場 をご覧ください。
重要:事前に利用先の病院・施設が「この身元保証サービスを受け入れているか」を確認しておきましょう。事業者に「この地域での受け入れ実績」を確認することも有効です。
対処法② 任意後見人(専門家)に依頼する
事前に任意後見契約を結んでおくと、後見が開始した後、後見人が施設入所の契約を代行できます(身上監護権限の範囲で)。
ただし、任意後見は「判断能力が低下した後」に開始する制度のため、判断能力がある段階での入院時保証人問題は解決しない場合があります。 身元保証サービスと組み合わせることで、より包括的な備えになります。
費用の目安:後見開始後の月額報酬2〜5万円程度
詳細は 認知症になったら誰が助けてくれる? をご覧ください。
対処法③ 弁護士・司法書士に個別に依頼する
身元保証サービスを利用せず、弁護士・司法書士に直接「身元保証業務」を依頼する方法もあります。
ただし、すべての弁護士・司法書士が身元保証業務を受けているわけではありません。事前に「身元保証業務を受けていますか?」と確認が必要です。
費用はスポット対応で数万〜10万円程度。継続的な対応が必要な場合は別途相談となります。
対処法④ 地域包括支援センター・自治体に相談する
「今すぐ困っている」「費用が厳しい」という方は、まず地域包括支援センターや市区町村の福祉担当窓口に相談しましょう。
社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」: 成年後見まで至らない段階での生活支援・金融手続きの支援を行う公的サービス(認知症・障害がある方が対象)。費用:利用料は1時間600〜1,200円程度と低コスト。
自治体によっては、身元引受人がいない高齢者向けの独自の支援事業を設けているところもあります。「何から相談すればよいかわからない」という方も、地域包括支援センターに電話するだけで、地域の選択肢を案内してもらえます。
介護施設への入所——特有の問題と対策
老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の保証人問題
介護施設への入所は、入院よりも保証人問題が深刻な場合があります。
施設が求める役割:
- 月額利用料の連帯保証(数万〜数十万円/月)
- 緊急時・医療方針の相談窓口
- 退所時の荷物引き取り・清算
特別養護老人ホームなどの公的介護施設でも保証人を求める場合がありますが、近年は「保証人なしでの受け入れ」を積極的に進めている施設も増えています。
民間の有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅は施設の独自判断が優先されるため、身元保証サービスを活用するのが現実的です。
施設探しの際の「保証人なし対応」確認方法
施設の見学・問い合わせの段階で、次のことを確認しましょう。
- 「民間の身元保証サービスを利用する予定ですが、対応していますか?」
- 「保証人なしで入所を受け入れた実績はありますか?」
- 身元保証サービス事業者に「この地域の施設での受け入れ実績リストを教えてもらえますか?」
事前確認を丁寧に行うことで、「いざ入所しようとしたら断られた」という事態を防げます。
今から備えておくべき3つのこと
①緊急連絡先リストを今すぐ更新する
まず今日からできることとして、緊急時に連絡してほしい人のリストを作成・更新しましょう。
リストに記載すること
- 氏名・生年月日・血液型
- 持病・服薬中の薬の名前
- かかりつけ医の名前・電話番号
- 緊急連絡先(友人・知人・弁護士など)の名前・電話番号・関係
- 身元保証サービスの名称・電話番号(契約済みの場合)
- 任意後見人の名前・電話番号(契約済みの場合)
このリストをスマートフォンの「緊急情報」に登録するほか、財布の中・自宅の冷蔵庫の扉(救急隊員が確認しやすい場所)に入れておく「救急安心キット」として置いておく方法も有効です。
②身元保証サービスの事前調査・契約
健康なうちに複数のサービスを比較・検討しておきましょう。
「入院になってから急いで探す」状況では、十分な比較ができず、焦った判断を後悔するリスクがあります。事前に情報収集→資料請求→無料相談という流れで、自分に合うサービスを見つけておくことが重要です。
③かかりつけ医・地域包括支援センターへの事前相談
かかりつけ医に「身元引受人がいない」という状況を事前に伝えておくと、入院が必要になった際にスムーズな対応につながることがあります。
地域包括支援センターに相談して地域の支援ネットワークに入っておくことで、緊急時に対応できる関係者を増やすことができます。
実際の入院・介護に備えるために、まずは身元保証サービスを比較してみましょう。ひとりでも安心できる仕組みがあります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 入院時に身元引受人がいないと絶対に断られますか?
A. 厚生労働省の方針では「身元保証人がいないことのみを理由に入院を断ってはいけない」とされています。しかし現場では、対応が十分整っていない医療機関もあります。緊急時は断られたと感じても諦めず、「民間の身元保証サービスを利用している(または利用予定)」と伝えることが有効です。また、入院前から身元保証サービスを契約しておくことで、このストレスを回避できます。
Q2. 友人に身元引受人を頼むことはできますか?
A. 法律上は問題ありません。ただし、入院費の連帯保証・緊急時の判断権限・退院の引受という重い責任を友人に負わせることになります。友人の年齢・健康状態・将来の関係の変化なども考慮が必要です。単独で頼むのではなく、「費用の保証は身元保証サービス・緊急連絡先は友人」という形で役割を分担する設計をおすすめします。
Q3. 入院費が払えない場合の対策はありますか?
A. いくつかの公的制度が利用できます。高額療養費制度(健康保険)を利用すると、月々の医療費が一定の上限額を超えた分は後から払い戻しされます。入院前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払い自体を上限額に抑えられます。また、病院のソーシャルワーカー(医療相談員)に相談すると、支払い方法の調整や福祉制度の紹介を受けられます。
Q4. 介護施設に入所した後、亡くなった場合の対応は誰がしますか?
A. 施設入所中に亡くなった場合、身元引受人(または身元保証サービス)が遺体の引取・葬儀の手配・荷物の引き取りなどを担います。身元保証サービスの契約内容に「死後事務」が含まれているかを確認しましょう。含まれていない場合は、別途「死後事務委任契約」([spoke_solo_07_shigo_jimu.md]参照)を結んでおく必要があります。
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本記事の情報は2026年3月時点のものです。厚生労働省の指針・各医療機関・介護施設の方針は変更される場合があります。個別の状況についてはかかりつけ医・地域包括支援センターにご相談ください。