デジタル遺品整理のやり方——写真・データ・クラウドを家族が安全に管理する手順
故人の遺品整理といえば、衣類や家具、貴金属などの「目に見えるもの」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし現代では、スマートフォンやパソコンの中、そしてクラウド上に膨大な「デジタル遺品」が存在しています。
総務省の調査(2023年)によると、スマートフォンの個人保有率は77.3%に達しています。ほぼすべての方にデジタル遺品が存在する時代です。
デジタル遺品の整理は、従来の遺品整理とは異なる知識と手順が求められます。何から手をつければよいのか、何を残して何を削除すべきなのか、判断に迷う場面が多いのが実情です。
この記事では、デジタル遺品の全体像を6つのカテゴリで整理し、優先順位に沿った具体的な手順をお伝えします。
デジタル遺品とは——6つのカテゴリで全体像を把握
デジタル遺品を体系的に理解するために、以下の6つのカテゴリに分類して考えましょう。
カテゴリ1——金融資産
ネット銀行の預金、ネット証券の株式・投資信託、暗号資産(ビットコインなど)、電子マネーの残高(PayPay、Suica、楽天Edyなど)が該当します。
これらはすべて相続財産に含まれます。相続税の申告対象となるため、見落としは許されません。
とくに暗号資産は、秘密鍵(ウォレットのパスワード)がなければアクセスすること自体が不可能です。取引所に預けている場合は相続手続きが可能ですが、個人のウォレットに保管されている場合は秘密鍵の紛失が資産の消失を意味します。
カテゴリ2——契約・課金
動画配信(Netflix、Amazon Primeなど)、音楽配信(Spotify、Apple Musicなど)、クラウドストレージ(iCloud+、Google Oneなど)、セキュリティソフトなどのサブスクリプション契約です。
携帯電話の通信契約もこのカテゴリに含まれます。放置すると毎月の課金が続くため、早めの対応が必要です。
カテゴリ3——SNS・コミュニケーション
Facebook、X(旧Twitter)、Instagram、LINEなどのSNSアカウント。Gmail、Yahoo!メールなどのメールアカウント。
放置するとなりすましや乗っ取りのリスクがあります。各SNSには追悼アカウント化や削除の手続きが用意されています。
カテゴリ4——思い出
スマホやデジカメで撮影した写真・動画。クラウドフォトライブラリ(iCloud写真、Googleフォト)に保存されたデータ。ブログや個人サイト、SNSへの投稿。
遺族にとって最も感情的な価値が高いカテゴリです。「残したいもの」と「整理すべきもの」の判断は、時間をかけて行いましょう。
カテゴリ5——ポイント・マイル
楽天ポイント、dポイント、Tポイント(現Vポイント)、Pontaポイントなど。航空マイル(ANA、JAL)。
サービスによって相続の可否が異なります。主要なポイント・マイルの相続対応は以下のとおりです。
| サービス | 相続 | 備考 |
|---|---|---|
| ANAマイル | 可能 | 死亡から6ヶ月以内に手続き必要 |
| JALマイル | 可能 | 法定相続人が手続き |
| 楽天ポイント | 不可 | アカウント閉鎖で失効 |
| dポイント | 条件付き | ドコモ契約の承継が必要 |
| Tポイント(Vポイント) | 不可 | アカウント閉鎖で失効 |
カテゴリ6——その他
ゲームアカウント(課金アイテムに金銭的価値がある場合も)、電子書籍(Kindleなど、利用権のみで相続不可)、ドメインやサーバー契約(ビジネス利用の場合は移管が必要)などが含まれます。
電子書籍について補足すると、Kindleで購入した書籍は「所有権」ではなく「利用権(ライセンス)」です。アカウントが閉鎖されると読めなくなります。Apple Booksも同様です。
デジタル遺品整理の優先順位
「何から手をつけるべきか」を明確にするために、以下の優先順位で整理を進めることをおすすめします。
第1優先——金融系デジタル遺品
最も緊急度が高いのが金融系です。理由は2つあります。
- 相続税申告の期限: 相続税の申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。ネット口座の存在を見落とすと、申告漏れによる追徴課税のリスクがあります。
- 暗号資産の消失リスク: 秘密鍵やシードフレーズが失われると、資産に永久にアクセスできなくなります。世界全体で約400万BTC(ビットコイン)が永久に失われたとする推計もあります。
ネット銀行・証券の口座発見方法と相続手続きの詳細については、ネット銀行・証券口座の相続手続きの記事で解説しています。
第2優先——契約系デジタル遺品
サブスクリプションや通信契約は、放置すると毎月課金が継続します。クレジットカードの明細、スマホのサブスク一覧、メールの受信履歴から契約を洗い出し、順次解約を進めましょう。
ただし、クレジットカードの解約はサブスクの解約後に行うのが鉄則です。カードを先に解約してしまうと、サブスクの解約手続きが複雑になる場合があります。
サブスクの発見方法と解約手順については、サブスクの解約手順の記事で解説しています。
第3優先——思い出系デジタル遺品
写真や動画は、遺族にとってかけがえのないものです。しかし、クラウドサービスには注意が必要です。
- iCloudは、アカウントの長期未使用やストレージ容量の超過でデータが削除される可能性があります
- Googleフォトも、Googleアカウントが停止されるとデータにアクセスできなくなります
- 無料プランのクラウドストレージは、一定期間ログインがないとデータが削除される規約になっているサービスもあります
保存したい写真・動画は、早めに外付けHDDやUSBメモリにバックアップを取りましょう。
第4優先——不要データの削除
明らかに不要なデータ(ダウンロードした一時ファイル、キャッシュなど)は削除して構いません。ただし、故人のプライバシーに配慮し、私的なメッセージやメモなどは慎重に扱いましょう。
判断に迷うものは、無理に今すぐ判断する必要はありません。一定期間(半年〜1年程度)保管してから改めて判断するのも一つの方法です。
デジタル遺品の整理方法でお悩みの方へ
何から手をつけるべきか、専門家のアドバイスを受けたい方は、まずは無料相談をご活用ください。金融系の手続きからデータの整理まで、全体の進め方をご案内します。
クラウドデータの引き継ぎ方法
iCloud(Apple)のデータ引き継ぎ
「故人アカウント管理連絡先」が設定されている場合
iOS 15.2以降で「故人アカウント管理連絡先(Digital Legacy)」が設定されていれば、指定された方はアクセスキーを使って故人のiCloudデータにアクセスできます。アクセス可能な期間は3年間です。
対象データ: iCloud写真、iCloud Drive、メール、連絡先、カレンダー、メモ、メッセージなど。
未設定の場合
Appleに「故人アカウントアクセス申請」を行います。死亡証明書、申請者の身分証明書、故人との関係を示す書類が必要です。処理には時間がかかります。
注意点として、iCloudの無料プラン(5GB)を利用していた場合、ストレージが満杯のまま放置すると、データの一部が削除される可能性があります。
Googleアカウントのデータ引き継ぎ
「アカウント無効化管理ツール」が設定されている場合
故人がGoogleの「アカウント無効化管理ツール(Inactive Account Manager)」を設定していれば、指定された待機期間(3ヶ月〜18ヶ月)の経過後に、指定された連絡先にデータが自動的に共有されます。
対象データ: Gmail、Googleフォト、Google Drive、YouTube、Google Mapのタイムラインなど。
未設定の場合
Googleに「故人のアカウントに関するリクエスト」を送信します。必要書類は申請者の身分証明書、故人の死亡証明書、故人のGmailアドレスなどです。処理には数ヶ月かかることもあります。
Dropbox・その他クラウドストレージ
Dropbox
Dropboxサポートに問い合わせ、死亡証明書を提出することで、データのダウンロードまたはアカウント閉鎖が可能です。
OneDrive(Microsoft)
Microsoftの「近親者の手続き」ページから申請します。故人のMicrosoftアカウントのデータにアクセスする手続きが用意されています。
共通の注意点
無料プランのクラウドストレージは、長期間のログインなしでデータが削除される規約になっているサービスがあります。大切なデータがクラウドにある場合は、できるだけ早くローカル(外付けHDDなど)にバックアップを取ることが重要です。
暗号資産(仮想通貨)の相続——秘密鍵がなければ失われる
暗号資産の相続の現実
暗号資産(ビットコイン、イーサリアムなど)の相続には、他のデジタル遺品とは異なる深刻な問題があります。
取引所に預けている場合
bitFlyer、Coincheck、GMOコインなどの暗号資産取引所に口座を持っている場合は、銀行や証券会社と同様に相続手続きが可能です。取引所に連絡し、所定の書類を提出すれば、相続人の口座に移管できます。
個人ウォレットに保管している場合
ハードウェアウォレット(Ledger、Trezorなど)やソフトウェアウォレットに保管している暗号資産は、秘密鍵(プライベートキー)またはシードフレーズ(復元用の12〜24語の英単語)がなければ、一切アクセスできません。
これは技術的な制限であり、誰にも解除できません。秘密鍵が失われた暗号資産は、ブロックチェーン上に記録として残り続けますが、永久に誰にも使えない状態になります。
暗号資産の相続手続き
取引所に預けている場合の一般的な流れは以下のとおりです。
- 取引所のカスタマーサポートに連絡し、口座名義人の死亡を届出
- 相続届・必要書類(戸籍謄本、死亡証明書、遺産分割協議書など)を提出
- 審査(2週間〜2ヶ月程度)
- 相続人の口座に暗号資産を移管、または円に換金して払い戻し
相続税の評価は、死亡日時点の取引価格に基づきます。国税庁の「暗号資産に関する税務上の取扱い」に従い、適切に申告する必要があります。暗号資産は価格変動が大きいため、評価額の算定には注意が必要です。
暗号資産の事前対策
暗号資産を保有している方は、以下の対策を今すぐ実行してください。
- 秘密鍵・シードフレーズを安全に記録: 紙に書き、耐火金庫など安全な場所に保管
- 取引所のアカウント情報を記録: 取引所名、メールアドレス、おおよその保有額
- 信頼できる家族に保管場所を伝達: 秘密鍵そのものではなく、「保管場所」を伝える
- 金額が大きい場合は信託サービスの活用も検討: 暗号資産の信託・相続サービスを提供する事業者が増えています
今からできる事前対策——デジタル資産一覧表の作成
デジタル資産一覧表のテンプレート
以下のテンプレートを参考に、自分のデジタル資産を一覧表にまとめておきましょう。
| カテゴリ | サービス名 | ID/アカウント名 | 概要 | 死後の対応方針 |
|---|---|---|---|---|
| 金融 | 楽天銀行 | 口座番号 1234567 | 普通預金 約200万円 | 相続手続き |
| 金融 | SBI証券 | 口座番号 8901234 | 国内株式・投信 | 相続手続き |
| 契約 | Netflix | xxxxx@gmail.com | 月額1,480円 | 解約 |
| 契約 | iCloud+ | xxxxx@icloud.com | 200GBプラン 月400円 | データ引継ぎ後に解約 |
| SNS | 山田太郎 | 個人アカウント | 追悼アカウント化 | |
| SNS | LINE | 電話番号紐付き | — | 削除(困難) |
| 思い出 | Googleフォト | xxxxx@gmail.com | 写真約5万枚 | バックアップ後に判断 |
| ポイント | ANAマイル | 会員番号 12345678 | 約30,000マイル | 相続手続き |
| 暗号資産 | bitFlyer | xxxxx@gmail.com | BTC 約0.5枚 | 相続手続き |
年に1回、内容を見直して更新することをおすすめします。新しいサービスを契約したときに追記する習慣をつけると、常に最新の状態を保てます。
エンディングノートへの記載と保管
デジタル資産一覧表は、エンディングノートに記載するか、別紙として添付しましょう。
パスワードの管理については、パスワード管理アプリ(1Password、Bitwardenなど)の利用が最も安全です。マスターパスワード1つだけを信頼できる家族に伝えておけば、万一の際にすべてのアカウント情報にアクセスできます。
パスワード管理アプリを使わない場合は、エンディングノートに直接記載しても構いません。ただし、エンディングノートの保管場所は信頼できる家族にのみ伝え、第三者の目に触れないよう注意してください。
大切なのは、「デジタル資産がある」という事実と「情報の保管場所」を家族に伝えておくことです。すべてのパスワードを共有する必要はありません。口座の「存在」がわかっていれば、相続人として正式な手続きを進められます。
よくある質問
Q: デジタル遺品整理を業者に依頼することはできますか?
A: はい、デジタル遺品整理の専門業者が増えています。費用相場は5万〜15万円程度です。ただし、端末のロック解除を保証するものではなく、対応範囲はデータの整理・バックアップ・不要データの消去が中心です。依頼する場合は、対応範囲と費用を事前に確認しましょう。
Q: 故人の写真データをクラウドからダウンロードするにはどのくらいの容量が必要ですか?
A: iCloudやGoogleフォトの使用容量によりますが、数十GB〜数百GBになることがあります。外付けHDD(1TBで5,000〜8,000円程度)を用意しておくと安心です。写真の枚数が多い場合は、Wi-Fi環境でダウンロードすることをおすすめします。
Q: 電子書籍(Kindle等)は相続できますか?
A: Kindleの電子書籍は「利用権」のライセンスであり、相続の対象外です。Amazonアカウントが閉鎖されると読めなくなります。Apple Booksも同様に利用権のみです。紙の本と異なり、デジタル書籍は「所有」ではなく「利用」している状態であることを理解しておきましょう。
Q: 故人のメールアカウントは削除すべきですか?
A: すぐに削除するのは避けましょう。メールアカウントには、各種サービスの登録確認メールやパスワードリセットのリンクが届きます。サブスクの解約やネット口座の相続手続きなど、すべてのデジタル遺品の整理が完了するまではメールアカウントを維持しておくことをおすすめします。
Q: ポイントやマイルの相続に期限はありますか?
A: ポイントやマイルには有効期限があるものが多く、期限を過ぎると失効します。ANAマイルは死亡から6ヶ月以内に相続手続きが必要です。楽天ポイントやTポイント(Vポイント)はアカウント閉鎖により失効し、相続はできません。相続可能なポイント・マイルについては、早めの手続きをおすすめします。
まとめ
デジタル遺品整理は、「金融系→契約系→思い出系→不要データ」の優先順位で進めることが大切です。とくに金融系(ネット銀行・証券・暗号資産)は相続税申告に直結するため、最優先で対応しましょう。
クラウドに保存されたデータは、各サービスのポリシーにより一定期間後に削除される可能性があります。保存したい写真・動画は早めにバックアップを取ってください。
そして、自分自身のデジタル資産一覧表を作成し、家族に「デジタル資産がある」という事実と情報の保管場所を伝えておくことが、最も効果的な事前対策です。
スマホのロック解除方法については別記事で詳しく解説しています。SNSアカウントの追悼化・削除の具体的な手続きについては別記事で解説しています。サブスクの発見方法と解約手順については別記事で解説しています。デジタル終活の全体像については別記事で詳しく解説しています。
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