成年後見人の費用相場と報酬——誰がいくら払う?

「成年後見制度を使いたいけれど、費用がどれくらいかかるか分からない」

こういった不安から、後見の申立てに踏み切れない家族は少なくありません。成年後見の費用は「一時的にかかる申立て費用」と「後見が続く間ずっとかかる後見人報酬」の2種類に分かれています。この構造を理解せずにいると、長期間にわたる費用負担の大きさに後から驚くことになります。

この記事では、申立て費用の内訳から後見人報酬の基準(東京家裁の目安)、費用が本人の財産から支払われる仕組み、そして費用の補助制度まで、すべてを一覧で整理します。「成年後見を始めたら、うちはいくら払うことになるのか」——その答えが分かるように設計しています。


成年後見の費用は「2種類」ある——一時費用と継続費用

成年後見制度にかかる費用は、次の2種類に整理できます。

費用の種類 発生タイミング 支払い先
一時費用(申立て費用) 申立て準備〜後見開始まで(一度きり) 裁判所・専門家
継続費用(後見人報酬) 後見開始後〜後見終了まで毎月 後見人

「申立てに10万円かかった」という話と「毎月4万円の報酬が10年で480万円になった」という話は、まったく別次元の費用です。多くの方が「申立て費用だけ」を見て「それほど高くない」と思いがちですが、成年後見の費用の本質は継続費用にあることを最初に押さえてください。


申立て時の費用——内訳と目安

費用①——収入印紙・郵便切手(裁判所手数料)

家庭裁判所への申立てには、収入印紙の貼付が必要です。

申立ての種類 収入印紙
後見の申立て 800円
保佐の申立て 1,200円
補助の申立て 1,200円

郵便切手は裁判所が指定します。目安は3,000〜5,000円程度です(家庭裁判所ごとに異なるため、申立て先の裁判所に確認してください)。

収入印紙・郵便切手だけを見ると、数千円程度の費用です。ここだけ見て「安い」と思ってはいけません。

費用②——医師の診断書・鑑定費用

診断書作成費用 かかりつけ医(または専門医)に「成年後見制度用の診断書」の作成を依頼します。各裁判所が定める書式を使用します。費用の目安は5,000〜15,000円程度です。

鑑定費用(必要な場合のみ) 診断書だけでは判断能力の程度を評価しきれない場合、家庭裁判所が医師(精神科医・神経科医など)による精神鑑定を命じることがあります。鑑定費用の目安は5〜10万円です。

鑑定の実施率は申立て件数全体の10%以下とも言われており、多くのケースでは鑑定なしで審判が進みます。ただし、財産が多い・類型の判断が難しい・申立て内容に疑問があるなどの場合は鑑定が命じられることがあります。

費用③——戸籍謄本・登記証明書等の取得費用

申立てに必要な公的書類の取得費用がかかります。

書類 費用目安
戸籍謄本(1通) 450円
住民票(1通) 200〜300円
後見登記がされていないことの証明書(登記事項証明書) 550円
固定資産評価証明書(不動産がある場合) 200〜400円/筆
通帳コピーなどの財産資料(自己収集) 実費程度

書類取得費用の合計目安:5,000〜15,000円程度

費用④——司法書士への申立て代理報酬

申立て書類の作成・提出は自分でも行えますが、必要書類の量・内容の複雑さから、ほとんどの申立て人が司法書士または弁護士に依頼します。

専門家の種類 依頼報酬の目安
司法書士(書類作成・申立て代理) 5〜15万円
弁護士(申立て代理) 10〜20万円

地域・事務所・ケースの複雑さによって費用は変わります。初回相談が無料の事務所も多いため、複数の事務所に見積もりを取ることをおすすめします。

申立て費用の合計目安

シナリオ 合計費用の目安
自力申立て・鑑定なし 1〜3万円
司法書士依頼・鑑定なし 8〜20万円
司法書士依頼・鑑定あり 13〜30万円

「司法書士依頼・鑑定なし」のシナリオが最も一般的です。申立て費用として8〜20万円を目安にしておきましょう。


後見人報酬の仕組み——誰がいくら受け取るか

後見人報酬は「家庭裁判所が決める」

後見人の報酬は、後見人が家庭裁判所に「報酬付与の申立て」を行うことで決定されます(民法第862条)。通常は年1回、後見人が申立てを行い、家庭裁判所が審判によって報酬額を決定します。

家庭裁判所が考慮する主な要素:

  • 管理している財産の総額
  • 後見事務の内容(複雑さ・作業量)
  • 本人の財産状況(支払い能力)

報酬は本人(被後見人)の財産から支払われます。後見人が別途費用を負担する必要はありません。

東京家庭裁判所の報酬基準(管理財産額別)

東京家庭裁判所が公表している、後見人報酬の付与の目安(基本報酬)は次のとおりです。

管理財産の総額 基本報酬(月額目安)
1,000万円以下 月2万円
1,000万円超〜5,000万円以下 月3〜4万円
5,000万円超 月5〜6万円

付加報酬(基本報酬に上乗せされる場合) 身上監護等において特段の事情がある場合、基本報酬の50%以内で付加報酬が認められることがあります。

注意事項 この基準はあくまで「目安」です。後見業務の内容・難易度・他の事情によって実際の審判額は異なります。また、これは東京家庭裁判所の目安であり、他の地域の家庭裁判所では基準が異なる場合があります。

親族後見人 vs 専門職後見人——報酬の実態

親族後見人(長男・長女などが後見人になるケース) 親族後見人は、報酬付与の申立てをしないケースが多く、実際には無報酬で後見事務を行っている方が多くいます。申立てをする場合でも、月1〜2万円以下に抑えるケースが多いです。

専門職後見人(司法書士・弁護士・社会福祉士が後見人になるケース) 専門職後見人は、上記の基準に従った報酬を請求するのが原則です(報酬を受け取ることが当然の前提で業務を引き受けています)。

10年・20年の長期累積試算

成年後見は、本人が亡くなるまで原則として継続します。認知症の発症から平均10〜15年以上生存するケース(厚生労働省データ参照)を考えると、後見人報酬の累積額は非常に大きな数字になります。

管理財産 月額報酬目安 10年間の累積 20年間の累積
500万円以下 月2万円 240万円 480万円
1,500万円 月3万円 360万円 720万円
3,000万円 月4万円 480万円 960万円
6,000万円 月5万円 600万円 1,200万円

(専門職後見人を前提とした目安。親族後見人の場合は大幅に少なくなるケースも多い)

「初期費用は10万円台だが、10年で300〜500万円を超える可能性がある」——これが成年後見の費用の実態です。


費用の見通しは個別の状況によって大きく異なります。まずは司法書士への無料相談で、ご自身の状況での概算を確認することをおすすめします。

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費用は誰の財産から払われるか——「本人払い」の原則

後見人報酬は被後見人の財産から支払われる

後見人報酬の支払い主体は「被後見人本人」です。本人(認知症の親)の財産から後見人への報酬が支払われます。

申立て費用(申立て準備にかかった費用)についても、後見開始後に本人の財産から精算するのが一般的です。

問題になるケース

本人の財産が少ない(預金残高が生活費ギリギリ)の場合、毎月の後見人報酬が生活費を圧迫する可能性があります。このようなケースでは、家庭裁判所が報酬を低額または無報酬と審判することがあります。また、次のセクションで解説する「成年後見制度利用支援事業」の活用も検討してください。

家族が立て替えた費用の精算

申立て前に家族が介護費用等を立替払いしていた場合、後見開始後に後見人(または申立てを行った親族)が本人財産から精算することが可能です。ただし、立替金の使途を証明できる領収書・明細書の保管が必須です。


費用が払えない場合——成年後見制度利用支援事業

制度の概要

「成年後見制度利用支援事業」は、介護保険法に基づく地域支援事業の一環として、各市区町村が実施する費用助成制度です(名称・内容は自治体により異なります)。

低所得のために成年後見制度の利用をあきらめざるを得ない認知症高齢者・障害者を支援することが目的です。

対象者・助成内容・申請方法

対象者の目安(自治体によって異なる)

  • 生活保護受給者
  • 住民税非課税世帯
  • 申立て費用・後見人報酬の支払いが困難と認められる方

助成内容の例

  • 申立て費用(収入印紙・鑑定費用など)の全額または一部補助
  • 後見人報酬(月額)の全額または一部補助

申請方法 居住する市区町村の介護・福祉担当課または地域包括支援センターに相談します。申立て前に相談・申請手続きが必要な場合が多いため、事後申請が認められないケースに注意してください。

活用の注意点 助成を受けるには、先に自治体への申請・審査が必要です。「後見を始めてから申請しよう」と思っていると、申立て費用が対象外になる場合があります。費用が心配な場合は、申立て前に地域包括支援センターに相談することを最優先にしてください。


家族信託との費用比較——長期視点での選択

成年後見の費用を検討する際に、家族信託との費用比較は重要な参考になります。

法定後見(専門職後見人) 任意後見 家族信託
初期費用 8〜20万円 7〜12万円 60〜100万円台
継続費用(月額) 後見人:月2〜6万円 後見人:月2〜5万円+監督人:月1〜3万円 受託者が家族なら原則ゼロ
10年間の累積費用 240〜720万円 360〜960万円(監督人含む) 初期費用のみ(追加費用なし)

長期視点で見ると、「初期費用が高くても家族信託を選ぶ」ことが合理的な選択になるケースが多くあります。特に管理財産が多く、認知症の発症が早い段階から心配される場合は、家族信託の設定を優先的に検討することをおすすめします。

ただし、家族信託は「判断能力があるうちにしか設定できない」制度です。すでに認知症が始まっている場合は、成年後見一択になります。


費用の見通しを立てた上で、成年後見の申立て準備を始めましょう。専門家のサポートで手続きが格段にスムーズになります。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 後見人の報酬を払う財産が本人にない場合はどうなりますか?

A. 本人の財産が少なく報酬の支払いが難しい場合、家庭裁判所は報酬をゼロまたは低額に審判することがあります。また、各市区町村の「成年後見制度利用支援事業」を利用することで、報酬の全部または一部の助成を受けられる場合があります。まず市区町村の福祉窓口または地域包括支援センターに相談することをおすすめします。低所得を理由に後見の利用をあきらめないよう、費用補助の制度を積極的に活用してください。


Q2. 親族が後見人になれば費用はゼロになりますか?

A. 親族後見人が報酬付与の申立てをしなければ報酬はゼロです。ただし、裁判所が専門職後見人を選任した場合は専門職の報酬(月2〜6万円)が発生します。財産が多い・親族間に争いがある場合は専門職が選ばれやすいため、「必ず親族が後見人になれる」とは限りません。また、親族後見人には定期的な財産目録の作成・裁判所への報告義務がありますので、「無報酬でいいので自分がやる」と決めた場合でも、その事務負担は相当なものになることを覚悟しておく必要があります。


Q3. 成年後見の申立て費用は誰が一時的に負担しますか?

A. 申立て費用は、申立人(親族など)が立て替えて支払います。後見開始後に、本人(被後見人)の財産から立替分を精算することが一般的です。立替金の使途・金額は明細書・領収書で記録しておくことが重要です。精算の具体的な方法は家庭裁判所に確認することをおすすめします。


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本記事の情報は2026年3月時点のものです。民法・家事事件手続法その他の関係法令および家庭裁判所の運用基準は改正・変更される場合があります。個別の費用については必ず専門家(司法書士・弁護士)または家庭裁判所にご確認ください。

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