相続人の確定方法——戸籍の集め方・法定相続情報一覧図の作り方
相続手続きを始めようとすると、銀行でも法務局でも「まず相続人を確定してください」と言われます。そして、そのために必要なのが「戸籍の束」です。
「戸籍って何をどこまで集めればいいの?」「本籍地が遠方で取りに行けない」——そんな疑問を持つ方は多いでしょう。
この記事では、相続人の確定に必要な戸籍の種類・集める範囲・取得方法を順を追って解説します。さらに、2024年3月に始まった広域交付制度や、手続きを格段に楽にする「法定相続情報一覧図」の作り方もお伝えします。
なぜ相続人の確定が必要なのか——手続きの入口
遺産分割・相続登記・口座解約——すべて「相続人の確定」が前提
相続が発生すると、遺産分割協議、不動産の相続登記、銀行口座の解約、保険金の請求など、さまざまな手続きを進めることになります。そのすべてで求められるのが「相続人が誰であるかの証明」です。
この証明手段が、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍です。戸籍を集めて初めて、「法定相続人はこの人たちです」と客観的に示すことができます。
「知っている相続人」だけでは不十分な理由
「うちは妻と子ども2人だけだから分かっている」と思われるかもしれません。しかし、被相続人に前婚の子がいた、認知した子がいた、養子縁組をしていたというケースは珍しくありません。
戸籍で確認せずに遺産分割協議を進めてしまうと、後から相続人が見つかった場合、協議書が無効になりやり直しになるリスクがあります。どのような家庭であっても、戸籍による確認は省略できないステップです。
集めるべき戸籍の種類と範囲
3種類の戸籍——戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍
相続手続きで登場する戸籍は、主に3種類あります。
| 種類 | 内容 | 手数料 |
|---|---|---|
| 戸籍謄本(全部事項証明書) | 現在有効な戸籍の全記載 | 450円/通 |
| 除籍謄本 | 婚姻・死亡・転籍などで全員が除かれた戸籍 | 750円/通 |
| 改製原戸籍(かいせいはらこせき) | 法改正による戸籍の様式変更前の戸籍 | 750円/通 |
改製原戸籍は聞き慣れない言葉ですが、戸籍法の改正(昭和32年・平成6年など)の際に、古い様式から新しい様式に書き替えられる前の戸籍です。書き替えの際に情報が引き継がれないこともあるため、相続人の確認には改製原戸籍まで遡る必要があります。
集める範囲——被相続人の「出生から死亡まで」の連続した戸籍
集めるべきは、被相続人の出生時の戸籍から死亡時の戸籍までの連続したすべての戸籍です。途中で婚姻・転籍・法改正による改製があれば、その都度新しい戸籍が作られていますから、すべてをつなげて取得する必要があります。
一般的に、1人の被相続人について5〜10通程度の戸籍が必要になります。転籍が多い方や、戦前に出生された方は10通以上になることもあります。
重要なのは「途切れなくつながっていること」です。途切れがあると、金融機関や法務局で「追加の戸籍を取得してください」と差し戻されます。
相続人側の戸籍も必要
被相続人の戸籍に加えて、各相続人の現在の戸籍謄本も必要です。これは、相続人が生存していること、そして被相続人との続柄を確認するためです。相続人1人につき1通を取得してください。
戸籍の取得方法——窓口・郵送・広域交付
本籍地の役所で取得(窓口・郵送)
戸籍は、被相続人の本籍地の市区町村役場で取得します。直接窓口に行くか、郵送で請求する方法があります。
郵送請求に必要なもの:
- 戸籍請求書(各自治体のホームページからダウンロード可能)
- 請求者の本人確認書類のコピー(運転免許証など)
- 手数料分の定額小為替(郵便局で購入)
- 返信用封筒(切手貼付)
- 被相続人との関係を示す書類(自分の戸籍のコピーなど)
郵送の場合、届くまでに1〜2週間かかります。本籍地が遠方で複数の自治体にまたがる場合は、1か所ずつ順番に請求していくことになるため、全部揃うまでに1〜2か月かかることも珍しくありません。
広域交付制度(2024年3月開始)で最寄りの役所でも取得可能に
2024年3月1日から、戸籍の広域交付制度が始まりました。これにより、本籍地が遠方であっても、最寄りの市区町村の窓口で戸籍謄本を請求できるようになりました。
これは非常に大きな変更です。従来は本籍地ごとに郵送で請求する必要がありましたが、広域交付を使えば、近くの役所の窓口1か所で被相続人のすべての戸籍を請求できる可能性があります。
ただし、以下の点にご注意ください。
- 窓口のみ対応で、郵送では利用できません
- 改製原戸籍やコンピュータ化されていない戸籍は対応が自治体によって異なります
- 窓口で本人確認(マイナンバーカードや運転免許証)が必要です
- 相続人本人が窓口に行く必要があります(代理人は不可の場合あり)
実際に利用する前に、最寄りの役所に電話で対応状況を確認しておくと安心です。
費用の目安——1通450〜750円
| 戸籍の種類 | 手数料 |
|---|---|
| 戸籍謄本 | 450円/通 |
| 除籍謄本 | 750円/通 |
| 改製原戸籍 | 750円/通 |
被相続人1人分で5〜10通程度になることが多く、合計で3,000〜7,000円程度が目安です。郵送請求の場合は、定額小為替の手数料(1枚200円)や切手代も加わります。
戸籍集めに不安がある方や、時間をかけられない方は、司法書士に依頼するのも一つの方法です。 相続手続きの無料相談を受け付けている専門家を探す方は、こちらの無料相談ページをご活用ください。
法定相続情報一覧図の作り方——手続きを格段に楽にする制度
法定相続情報証明制度とは
戸籍を集め終わったら、ぜひ活用したいのが「法定相続情報証明制度」です。
この制度は、集めた戸籍の束と相続関係を整理した一覧図を法務局に提出すると、法務局が内容を確認した上で認証済みの一覧図の写しを発行してくれるものです。
認証済みの一覧図は、銀行口座の解約、保険金の請求、相続登記など、多くの手続きで「戸籍の束」の代わりとして使えます。手数料は無料で、必要な枚数だけ発行してもらえます。
一覧図の作成手順(4ステップ)
ステップ1:戸籍を全部集める
被相続人の出生から死亡までの戸籍+相続人全員の現在の戸籍を揃えます。
ステップ2:一覧図を作成する
法務局のホームページに掲載されている様式を参考に、A4用紙に以下の情報を記載します。
- 被相続人の氏名・生年月日・死亡日・最後の住所・本籍
- 各相続人の氏名・生年月日・住所・続柄
- 被相続人と各相続人の関係を線でつなぐ(家系図の形式)
手書きでもパソコンでも構いません。法務局のホームページにはExcelのテンプレートも用意されています。
ステップ3:法務局に申出
以下の書類を持って、被相続人の最後の本籍地・住所地・不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局に申出をします。
- 申出書(法務局ホームページからダウンロード)
- 被相続人の出生〜死亡の戸籍の束(原本)
- 相続人全員の現在の戸籍(原本)
- 作成した一覧図
- 申出人の本人確認書類
提出した戸籍の原本は、処理完了後に返却されます。
ステップ4:認証済み一覧図の写しを受領
申出から1〜2週間で認証済みの一覧図の写しが交付されます。必要な枚数(5〜10枚程度が便利)を申出時に指定できます。
一覧図を作ると何が楽になるか
法定相続情報一覧図を作成する最大のメリットは、複数の手続きを同時に進められることです。
戸籍の束は通常1セットしか用意しませんから、銀行→保険会社→法務局と順番に回すことになり、時間がかかります。しかし一覧図の写しは複数枚もらえるので、同時に複数の金融機関に提出できます。
さらに、一覧図は5年間の保存期間中であれば再発行も可能です。追加の手続きが発生した場合も、法務局に再交付を申請すれば入手できます。
注意が必要なケース——代襲相続・養子・行方不明の相続人
代襲相続がある場合
被相続人の子がすでに亡くなっている場合、その子(被相続人の孫)が代わりに相続人になります(代襲相続)。この場合、先に亡くなった子の出生から死亡までの戸籍+孫の現在の戸籍も追加で必要です。
養子がいる場合
被相続人に養子がいる場合は、養子縁組の記載がある戸籍が必要です。
注意点として、普通養子縁組の場合は養子は実親と養親の両方の相続権を持ちますが、特別養子縁組の場合は実親との法的な親子関係が終了します。養子の有無は戸籍でしか確認できないため、必ず出生からの戸籍を確認してください。
行方不明の相続人がいる場合
戸籍を集める過程で、連絡先が分からない相続人が見つかることがあります。まずは戸籍の附票を取得して住所を調べます。戸籍の附票には、住民票の異動履歴が記録されています。
それでも所在が判明しない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる必要があります。行方不明の相続人がいる場合の具体的な対処法は、行方不明の相続人への対応を解説した記事で詳しく説明しています。
自分でやるか専門家に依頼するか——判断基準
自分で進められるケース
以下の条件に当てはまる場合は、自分で戸籍集めを進められる可能性が高いです。
- 相続人が配偶者+子のみで、人数が少ない
- 被相続人の本籍地の移動が少ない(1〜2か所程度)
- 代襲相続や養子がいない
- 時間に余裕がある(1〜2か月程度)
広域交付制度を活用すれば、窓口1か所で済む場合もあります。
司法書士に依頼したほうがよいケース
以下のような場合は、司法書士に依頼することで時間と手間を大幅に節約できます。
- 被相続人が何度も転籍しており、本籍地が複数にまたがる
- 代襲相続や養子がいて、集めるべき戸籍が複雑
- 相続登記も同時に進めたい
- 仕事が忙しく、役所に行く時間が取れない
司法書士に戸籍集めから法定相続情報一覧図の作成までを依頼した場合の費用は、3〜5万円程度が相場です。相続登記もセットで依頼すればまとめて対応してもらえます。相続登記の手続きと費用については、相続登記について解説した記事もあわせてご確認ください。
相続人の確定から相続登記まで一括で依頼できる司法書士を探したい方は、こちらの無料相談ページをご活用ください。 初回無料で相談できる事務所を比較できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 戸籍を集めるのにどのくらいの期間がかかりますか?
自分で郵送請求する場合、本籍地の数にもよりますが1〜2か月が目安です。広域交付制度を使えば、条件次第で1日〜数日に短縮できます。司法書士に依頼した場合は2〜4週間程度です。
Q2. 法定相続情報一覧図は自分で作れますか?
はい、自分で作成できます。法務局のホームページにExcelテンプレートと記載例が掲載されていますので、それを参考にすれば特別な知識がなくても作成可能です。手数料も無料です。
Q3. 被相続人の本籍地が分からない場合はどうすればよいですか?
被相続人の最後の住所地の市区町村役場で「住民票の除票(本籍地入り)」を請求すれば、最後の本籍地が判明します。そこを起点にして、順に遡って戸籍を集めていきます。
Q4. 戸籍の広域交付制度は改製原戸籍にも対応していますか?
制度上は対応していますが、コンピュータ化されていない戸籍(手書きの古い戸籍)については、一部の自治体で対応が追いついていないケースがあります。事前に最寄りの市区町村に電話で確認されることをおすすめします。
まとめ
相続手続きの第一歩は「相続人の確定」です。そのためには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を集める必要があります。
戸籍の種類は戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍の3つ。取得方法は本籍地の窓口・郵送請求・広域交付制度の3つです。2024年3月に始まった広域交付制度を使えば、最寄りの役所で取得できる可能性があり、以前より格段に便利になりました。
戸籍が集まったら、法定相続情報一覧図を作成しましょう。手数料無料で複数枚発行でき、その後の手続きがスムーズに進みます。
代襲相続や養子がいるなど複雑なケースでは、司法書士に依頼するのも賢い選択です。相続人の確定が終わったら、次は遺産分割協議に進みます。遺産分割協議の進め方については、遺産分割協議のやり方を解説した記事をご覧ください。

