任意後見制度の仕組みと手続き——「自分で後見人を選んでおく」方法と費用

任意後見制度の仕組みと手続き——「自分で後見人を選んでおく」方法と費用

「もし認知症になったら、誰が自分の代わりに財産を管理してくれるのだろう」——この不安を感じたことがある方は少なくないでしょう。

任意後見制度は、判断能力が十分なうちに「将来、自分の後見人になってほしい人」を自分で選んでおける制度です。裁判所が後見人を決める法定後見制度とは異なり、自分の意思で信頼できる人を指名できるのが最大の特徴です。

この記事では、任意後見制度の仕組み・手続きの流れ・費用を、わかりやすく解説します。家族信託との比較や、おひとりさまにとっての重要性にも触れていますので、認知症への備えを考え始めた方はぜひ参考にしてください。

終活全体で何をすべきか確認したい方は、終活チェックリストの記事をあわせてご覧ください。


任意後見制度とは?——わかりやすく解説

任意後見制度を一言でまとめると、「将来、判断能力が低下した時に備えて、自分で後見人を選んでおく制度」です。

ポイントは「自分で選べる」という点です。多くの方がイメージする後見制度は、認知症が進んでから家庭裁判所に申し立てる「法定後見制度」ですが、法定後見では後見人を裁判所が選びます。見ず知らずの弁護士や司法書士が後見人になることも珍しくありません。

任意後見制度を利用すれば、まだ判断能力がしっかりしているうちに、自分が信頼する人を後見人として指名し、「どんなことを任せるか」まで契約で決めておくことができます。

つまり、任意後見制度は「自分の老後を、自分の意思で設計するための仕組み」です。


任意後見と法定後見の違い——比較表で理解する

比較表

項目 任意後見 法定後見
利用開始の時期 判断能力があるうちに契約 判断能力が低下した後に申立て
後見人の選び方 本人が自由に指名 裁判所が選任
契約形態 公正証書による契約 家庭裁判所の審判
権限の範囲 契約で自由に決められる 法律で定められた範囲
取消権 なし あり
監督体制 任意後見監督人 家庭裁判所
費用の発生時期 後見開始後 後見開始後

法定後見のデメリットと任意後見の優位性

法定後見制度には、いくつかの大きなデメリットがあります。

本人の意思が反映されにくい: 裁判所が選ぶ後見人は、本人の希望とは関係なく決まります。家族を希望していても、専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士)が選任されるケースは全体の約7割に上ります。

報酬負担が重い: 専門職が後見人になると、月額2〜6万円程度の報酬が発生します。これは本人の財産から支払われ、後見が終了する(本人が亡くなる)まで続きます。

柔軟性に欠ける: 法定後見は一度開始すると、原則として本人が亡くなるまで終了しません。また、裁判所の監督下に置かれるため、不動産の売却などには裁判所の許可が必要です。

任意後見制度であれば、これらのデメリットを大幅に軽減できます。


任意後見の手続き——5つのステップ

ステップ①後見人候補者を決める

最初に行うのは、「誰に後見人になってもらうか」を決めることです。

家族・親族: 配偶者、子、兄弟姉妹などが最も一般的です。日常的にコミュニケーションが取れる人が望ましいでしょう。

信頼できる第三者: 友人や、弁護士・司法書士などの専門職に依頼することもできます。

後見人に求められる資質としては、信頼性はもちろん、本人が判断能力を失った後も長期間にわたって責任を果たせる健康状態と地理的な距離が重要です。なお、複数の人を後見人に指名することも可能です。

ステップ②契約内容を決める

次に、後見人に何を任せるかを具体的に決めます。

代理権の範囲の例:

  • 預貯金の管理・払い戻し
  • 不動産の管理
  • 介護施設への入所契約
  • 医療に関する契約
  • 保険金の請求
  • 税金の申告・納付

報酬の取り決め: 家族が後見人になる場合は無報酬とすることも多いですが、第三者に依頼する場合は月額報酬を契約で定めます。

契約のタイプ: 任意後見契約には3つのタイプがあります。

タイプ 内容
将来型 現在は自分で管理し、将来判断能力が低下した時に発効する(最も一般的)
即効型 契約後すぐに後見を開始する(軽度の判断能力低下がすでにある場合)
移行型 まずは「財産管理委任契約」でサポートを受け、判断能力低下後に任意後見に移行

ステップ③公正証書で契約を締結する

任意後見契約は、必ず公正証書で作成しなければなりません(任意後見契約に関する法律3条)。口頭の約束や、普通の書面での契約では効力がありません。

手続きの流れ:

  1. 公証役場に予約を取る
  2. 本人と後見人候補者が公証役場に出向く
  3. 公証人が契約内容を確認し、公正証書を作成
  4. 契約締結後、公証人の嘱託により法務局に登記される

必要書類:

  • 本人: 戸籍謄本、住民票、印鑑証明書、実印
  • 後見人候補者: 住民票、印鑑証明書、実印

公証役場には事前に契約内容の草案を持参すると、手続きがスムーズです。司法書士に依頼すれば、草案の作成から公証役場との調整まで代行してもらえます。

ステップ④判断能力が低下したら任意後見監督人の選任を申立て

任意後見契約を結んだだけでは、まだ後見は始まりません。実際に判断能力が低下した時に、家庭裁判所に「任意後見監督人の選任」を申し立てることで、初めて任意後見がスタートします。

申立てができる人:

  • 本人
  • 配偶者
  • 四親等以内の親族
  • 任意後見受任者(後見人候補者)

任意後見監督人の役割: 後見人が適切に職務を行っているかを監督する第三者です。通常は弁護士や司法書士が選任されます。後見人を「監視する人」がいることで、不正を防ぐ仕組みになっています。

ステップ⑤任意後見の開始

監督人が選任されると、任意後見が正式に始まります。後見人は契約で定められた内容に基づいて、本人の財産管理や身上監護(介護施設の契約など)を行います。

後見人は、監督人に対して定期的に活動報告を行う義務があります。使途不明金がないか、本人の利益に反する行為がないかなどがチェックされます。


任意後見にかかる費用

任意後見制度を利用する場合の費用を、段階ごとに整理します。

契約時にかかる費用

項目 金額の目安
公正証書作成手数料 1万1,000円
法務局への登記嘱託手数料 1,400円
収入印紙代 2,600円
正本・謄本代 数千円
合計 約2〜3万円

専門家に契約書作成を依頼する場合

項目 金額の目安
司法書士への報酬 10〜20万円程度

契約内容の設計から公証役場との調整まで、一括して依頼できます。

後見開始後にかかる費用

項目 金額の目安
監督人選任の申立費用 収入印紙800円+登記手数料1,400円+郵便切手代
鑑定費用(必要な場合) 5〜10万円
後見人への報酬(月額) 2〜5万円(家族の場合は無報酬も可)
監督人への報酬(月額) 1〜3万円

後見人が家族の場合、報酬を無報酬とすることも多いですが、監督人への報酬は原則として発生します。監督人の報酬は、家庭裁判所が本人の資産額や業務内容に応じて決定します。

任意後見の手続きや費用について、ご自身の状況に合わせた具体的なアドバイスが必要な方は、専門家への無料相談をご活用ください。契約内容の設計から費用の見積もりまで、丁寧にご説明いたします。


任意後見と家族信託の比較——どちらを選ぶべきか

認知症対策として、任意後見制度と並んでよく検討されるのが家族信託です。それぞれの特徴を比較してみましょう。

比較表

項目 任意後見 家族信託
主な目的 身上監護+財産管理 財産管理が中心
身上監護(介護契約等) 対応可能 対応不可
不動産の処分 監督人の同意が必要な場合あり 受託者の判断で可能
資産運用の柔軟性 制限あり(元本保全が原則) 柔軟に設計可能
初期費用 比較的安い(2〜3万円+専門家費用) 高い(30〜100万円程度)
月々のランニングコスト あり(監督人報酬等) 基本なし
裁判所の関与 あり なし
開始のタイミング 判断能力低下後 契約時から有効

家族信託の仕組みや手続きについてはこちらの記事で詳しく解説しています。認知症対策としてどちらが適しているか、比較検討する際にお役立てください。

併用という選択肢

実は、任意後見と家族信託は「どちらか一方」ではなく、併用することも可能です。

  • 財産管理 → 家族信託(不動産の売却や資産運用を柔軟に行える)
  • 身上監護 → 任意後見(介護施設との契約や医療に関する判断をサポート)

それぞれの強みを活かした設計にすることで、より手厚い備えが実現します。ただし、設計が複雑になるため、専門家(司法書士・弁護士)に相談しながら進めることをおすすめします。


おひとりさまにとっての任意後見の重要性

配偶者や子どもがいない「おひとりさま」にとって、任意後見制度は特に重要です。

身寄りがない方が認知症になった場合、法定後見制度を利用することになりますが、後見人は裁判所が選ぶため、見ず知らずの専門職が自分の財産と生活を管理することになります。

任意後見制度を利用すれば、元気なうちに信頼できる友人・知人や、信頼できる専門職を自分の意思で選んでおけます。

さらに、任意後見契約とあわせて「死後事務委任契約」を結んでおくと安心です。死後事務委任契約は、亡くなった後の葬儀・納骨・各種届出・遺品整理などを任せる契約です。任意後見は本人の死亡で終了するため、死後のことまでカバーするには別途契約が必要です。

おひとりさまの終活全般についてはこちらの記事で詳しくまとめています。


よくある質問

Q: 任意後見契約を結んだ後、後見人を変更できますか?

A: 任意後見が開始される前(監督人が選任される前)であれば、当事者の合意による解除、または公証人の認証を受けた書面による一方的な解除で契約を解消し、新たな後見人候補者と契約を結び直すことが可能です。ただし、任意後見開始後(監督人選任後)の解除には、正当な事由があり家庭裁判所の許可を受ける必要があります。後見人の選定は慎重に行いましょう。

Q: 任意後見人は何でもできるのですか?

A: いいえ。任意後見人ができるのは、契約で定めた代理権の範囲内の行為のみです。契約に含まれていないことは代理できません。また、法定後見と異なり「取消権」がないため、本人が判断能力低下後に行った不利な契約を後から取り消すことはできません。この点は任意後見制度のデメリットの一つといえます。

Q: 家族がいても任意後見契約は必要ですか?

A: 家族がいても検討する価値はあります。認知症になってから法定後見を申し立てた場合、必ずしも家族が後見人に選ばれるとは限りません。裁判所の判断で専門職が選任されるケースも多くあります。元気なうちに任意後見契約を結んでおけば、希望する家族を確実に後見人に指名できます。


まとめ——元気なうちに「自分で選ぶ」という安心を

任意後見制度のポイントを改めて整理します。

  • 任意後見は、自分で後見人を選べる唯一の方法。法定後見では裁判所が決める
  • 手続きは5ステップ: 候補者決定 → 契約内容の設計 → 公正証書で契約 → 判断能力低下時に監督人選任の申立て → 後見開始
  • 費用: 契約時は約2〜3万円、後見開始後は月額3〜8万円程度(後見人+監督人報酬)
  • 家族信託との併用も可能: 財産管理は家族信託、身上監護は任意後見という設計
  • おひとりさまにとっては特に重要: 信頼できる人を自分の意思で選べる

認知症は誰にでも起こりうるものです。「まだ大丈夫」と思える今こそが、自分の意思で後見人を選べるタイミングです。

終活全体で何をすべきか確認したい方は、終活チェックリストの記事もあわせてご覧ください。

任意後見制度の利用を検討されている方は、まずは司法書士への無料相談で具体的な手続きと費用を確認してみてください。ご自身の財産状況やご家族の状況に応じて、任意後見・家族信託・その両方のうち、どれが最適かをアドバイスしてもらえます。

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