遺産分割協議書の書き方テンプレート——ケース別記載例

「相続人全員で話し合って、誰が何を引き継ぐか決まりました。次は遺産分割協議書を作らないといけないと言われたのですが、どう書けばいいのかわからなくて——」

相続の話し合いがまとまったあと、必ずこの壁にぶつかります。遺産分割協議書は法律書類ですが、正しいテンプレートと必須事項さえ押さえれば、シンプルなケースであれば自分で作成することは十分可能です。

この記事では、4つの典型ケースのテンプレートと記載例、そして実印・印鑑証明書の取り扱いから郵送での署名集めまで、実務的な手順を解説します。


遺産分割協議書の法的意味——なぜ必要なのか

遺産分割協議書がないとどうなるか

遺産分割協議書は、「相続人全員が遺産分割の内容に合意した」ことを証明する書類です。

法律上は口頭の合意でも遺産分割は成立しますが、実務上は遺産分割協議書なしには次の手続きが進みません。

  • 銀行口座の名義変更・解約(多くの金融機関が協議書の提出を求める)
  • 不動産の相続登記(2024年4月から3年以内の申請が義務化)
  • 証券会社での株式の名義変更
  • 自動車の名義変更

また、「合意した・合意していない」のトラブルを防ぐためにも書面で残すことが重要です。

遺産分割協議書の必須記載事項

遺産分割協議書には次の情報が必須です。

必須項目 内容
被相続人の情報 氏名・死亡日・本籍地・最後の住所
協議書の作成日 年月日を記載
各相続人が取得する財産 種類・金額・口座番号・不動産の表示等
全相続人の署名・実印 認印ではなく実印(市区町村に登録した印鑑)が必要
印鑑証明書の添付 発行から3ヶ月以内のもの(各自1通)

実印+印鑑証明書が必要な理由: 銀行・法務局は「本人の真正な意思による署名・押印」を確認するため、登録された実印と印鑑証明書のセットを求めます。通常の認印では受け付けられません。


ケース別テンプレート——4つの典型ケース

テンプレート①——預貯金のみの場合(最もシンプル)


遺産分割協議書(預貯金のみ)

被相続人 山田太郎(昭和〇〇年〇月〇日生、令和〇〇年〇月〇日死亡) 本籍 東京都〇〇区〇〇〇丁目〇番地 最後の住所 東京都〇〇区〇〇〇丁目〇番〇号

上記被相続人の遺産について、共同相続人全員で遺産分割協議を行った結果、下記のとおり分割することに合意した。

  1. 相続人 山田花子は次の財産を取得する。

○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号1234567(残高一切)

  1. 相続人 山田一郎は次の財産を取得する。

△△銀行 △△支店 定期預金 口座番号7654321(残高一切)

  1. 上記以外の遺産があった場合は、相続人全員の協議によって定める。

令和〇〇年〇月〇日

相続人(住所)東京都〇〇区〇〇〇丁目〇番〇号 氏名 山田花子  (実印)

相続人(住所)神奈川県〇〇市〇〇〇丁目〇番〇号 氏名 山田一郎  (実印)


重要ポイント:

  • 大手銀行の多くは独自の「相続手続依頼書」を準備しています。その書式で手続きができる場合は、別途協議書が不要なことがあります。事前に各銀行に確認してください。
  • 残高は協議時点のおおよその金額を記載するか、「一切」と記載します。

テンプレート②——不動産と預貯金がある場合

不動産を含む場合は、「登記簿の表示どおり」の正確な記載が必須です。


遺産分割協議書(不動産・預貯金)

(前文は①と同様)

  1. 相続人 山田花子は次の財産を取得する。

(土地) 所在 東京都〇〇区〇〇〇丁目 地番 〇番〇 地目 宅地 地積 150.00平方メートル

(建物) 所在 東京都〇〇区〇〇〇丁目〇番地〇 家屋番号 〇番〇 種類 居宅 構造 木造瓦葺2階建 床面積 1階〇〇.〇〇平方メートル、2階〇〇.〇〇平方メートル

  1. 相続人 山田一郎は次の財産を取得する。

○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号1234567(残高一切)

(以下、署名押印欄)


重要ポイント:

  • 地番≠住居表示です。「〇丁目〇番〇号」という住居表示ではなく、登記簿に記載された「地番」を正確に転記してください。登記簿(不動産の全部事項証明書)は法務局またはオンラインで取得できます(1通600〜700円)。
  • マンションの場合は「専有部分の建物の表示」と「敷地権の表示」の両方を記載します。
  • 不動産の相続登記(2024年4月から3年以内に義務化)のために法務局に提出するため、記載精度が特に重要です。

テンプレート③——代償分割の場合

不動産を1人が取得し、他の相続人に現金を支払う「代償分割」のテンプレートです。


遺産分割協議書(代償分割)

(前文は①と同様)

  1. 相続人 山田一郎は次の財産を取得する。

(土地・建物の表示:上記テンプレート②と同様に記載)

  1. 山田一郎は、第1項の財産を取得する代償として、相続人 山田花子に対し、代償金 金3,000万円を令和〇〇年〇月〇日までに支払う。
  1. 上記以外の預貯金については、相続人全員の法定相続分に応じて分割する。

(以下、署名押印欄)


重要ポイント:

  • 代償金の支払期限を明記することが重要です。
  • 代償金が支払われない場合に備え、「公正証書」として作成することを強くお勧めします(公証役場での費用:数万円)。公正証書にすることで、裁判なしで強制執行(差押え)が可能になります。
  • 代償金の受取は贈与ではなく相続として扱われますが、税務上の取り扱いは税理士にご確認ください。

テンプレート④——一部分割の場合

急ぎの手続きが必要な財産(預貯金)だけを先に分割するケースです。


遺産分割協議書(一部分割)

(前文は①と同様)

上記被相続人の遺産のうち、下記の預貯金についてのみ遺産分割協議を行い、下記のとおり合意した。その余の遺産については、別途協議するものとする。

  1. 相続人 山田花子は次の財産を取得する。

○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号1234567(残高一切)

  1. 本協議書に含まれない被相続人の財産については、後日相続人全員で協議のうえ、別途遺産分割協議書を作成するものとする。

(以下、署名押印欄)


重要ポイント:

  • 一部分割後の残余財産についても、相続税申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに分割協議を完了させる必要があります。
  • 相続税の申告期限後に遺産分割が確定した場合は、「修正申告」や「更正の請求」が必要になることがあります。

不動産を含む遺産分割協議書は、登記申請のために正確な記載が求められます。記載ミスで登記が受理されないリスクを避けるため、司法書士への依頼が安心です。

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署名押印と印鑑証明書——郵送で集める場合の手順

実印と印鑑証明書の取り扱い

実印とは: 市区町村に登録された印鑑で、「印鑑登録証明書」によって登録が確認できるものです。

印鑑登録証明書の取得方法:

  • 市区町村の窓口(1通300〜400円)
  • コンビニのマルチコピー機(マイナンバーカードが必要、1通200〜300円)

発行から3ヶ月以内のものを使用します(多くの金融機関・法務局の要件)。

押印の注意点:

  • 協議書の署名横に実印で押印(スタンプ式ではなく、朱肉を使う実印で)
  • ページが複数になる場合は「割印(契印)」が必要(各ページをまたいで実印で押印)

郵送で全員の署名押印を集める手順

相続人全員が一堂に集まれない場合でも、郵送で対応できます。

方法A:順番に回す方法(署名が少ない場合向け)

  1. 協議書を必要部数(相続人数+手続き機関分)印刷する
  2. 代表相続人が最初に署名・実印押印し、印鑑証明書を同封
  3. 封筒に入れて次の相続人に簡易書留で郵送
  4. 全員が押印し終わったら代表者のもとに戻す

方法B:各自に別々に郵送する方法(遠方・関係が複雑な場合向け)

  1. 各相続人に同一内容の協議書を1部ずつ郵送する
  2. 各自が自分の分に署名・実印押印し、印鑑証明書を添付して返送
  3. 全員分を代表者が回収して揃える(各1通)

注意: FAXやメールのスキャンデータでは実印の押印が確認できないため無効です。必ず原本を郵送で回収してください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 遺産分割協議書に期限はありますか?

A. 遺産分割協議書の作成自体に法律上の期限はありません。ただし、関連する手続きに期限があります。相続放棄(3ヶ月以内)、準確定申告(4ヶ月以内)、相続税申告(10ヶ月以内)、不動産の相続登記(2024年4月から3年以内の義務化)。特に不動産の相続登記は義務化されており、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(罰則)が科される可能性があります。早めに協議をまとめて協議書を作成することをお勧めします。


Q2. 遺産分割協議書は公証役場で公正証書にした方がいいですか?

A. 通常の遺産分割協議書は公正証書にする義務はありません。ただし、代償金の支払いが含まれる場合は、公正証書にすることで「強制執行認諾条項」を付けられ、代償金不払い時に裁判なしで強制執行できます。代償分割を含む場合は、安全のために公正証書化を検討することをお勧めします(費用:数万円〜)。


Q3. 相続人の1人が署名を拒否しています。どうすればよいですか?

A. 遺産分割協議書は相続人全員の署名・押印が必須です。1人でも拒否すれば協議書は完成しません。この場合は家庭裁判所への「遺産分割調停」の申立てが次のステップです。調停で合意が得られない場合は「遺産分割審判」に移行し、裁判官が分割方法を決定します。弁護士への依頼をお勧めします。


Q4. 協議書の内容を後から変更できますか?

A. 全相続人が合意すれば、新たな協議書を作成して変更することができます(再分割)。ただし税務上は再分割による財産の移転が「贈与」とみなされて贈与税が課税されることがあります。すでに相続登記が完了している場合は登記の変更も必要です。慎重に判断し、税理士・司法書士にご相談ください。


Q5. 遺産分割協議書は何通作ればよいですか?

A. 相続人の人数分+手続きを行う金融機関・法務局の数だけ作成することをお勧めします。例えば「相続人2人、銀行2行、不動産1件」の場合は最低5通程度です。法務局への提出分は「原本還付申請」ができるため、後日返却されます。銀行も機関によって原本を返却するところがあります。事前に各機関に確認してください。


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本記事の情報は2024年時点のものです。各機関の書式・手続き要件は変更される場合がありますので、最新情報は各金融機関・法務局・専門家にご確認ください。

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